発売からしばらく経ちましたが、私もEG νガンダムを購入することができました。早く組み立てたい気持ちはあるのですが、ランナー状態を観察しても非常に面白かったです。特に見ていて特徴的だったのがスライド金型と4色成形金型ですが、今回はスライド金型について考察したいと思います。
※仕事柄射出成型部品の金型について考えることが多いためその延長上での自分の考えを述べた記事です。バンダイさんの公式見解でもなければ、間違った話をしている可能性も十分あるとのご理解をよろしくお願いします。
※4色成形の記事もこちらに書きました。
EGνガンダムとスライド金型
EGが始まって以降、スライド金型が積極的に使われている印象です。EG発売以前でも要所では使われてきていましたが、ランナー1つに収まるように部品配置を調整していたように思います。
スライド金型が使われているランナー
BランナーとCランナーです。
スライド金型とは
金型とは
模型をやっている方なら説明不要かと思いますが、金型、特にプラスチック部品を生産する射出成型金型とは金属の塊に部品形状を彫り込んだもので、その中に樹脂を流すことで目的の形状の部品を作ることができます。1つの金属の塊に部品形状を掘ってしまうと流し込んだ樹脂部品が取り出せなくなるので(そもそも彫れませんが)、通常は金属の塊を2枚に分けてそれぞれに部品形状を彫り込むことで、金型を開いて部品を取り出せるようにしています。
部品を作る上での理解は上記で十分かと思いますが、実際には部品形状を彫り込んだ2枚の金属以外にも、その金属を固定するもの、取り外すときの補助となるピン(Eピン)やEピンを稼働させる機構、温調回路など様々な構成要素があります。
ちなみに製品外観側の金型をキャビ型、製品裏側(通常Eピンがある側)をコア型と呼びます。成型機で樹脂を充填した後の基本的な動作は
- コア型が開く
- EPが製品を突き出して製品を取り出す
となっていて、これらの動作をする機構は通常の成型機であれば備え付けられています。
スライド金型とは
通常の2枚で構成された射出成型金型では、2枚の金型が開く方向が解放されていないと金型がぶつかってしまってうまく動作することができません。そのため金型が動く方向に対して部品形状を作る際には金型に対して工夫をする必要があります。
その工夫として、EGνガンダムの場合はスライドコア金型を使っているように見受けられます。
スライドコア金型とはコア型の一部をスライドさせる金型のことで、キャビ型にスライド動作用のピンを立てておいて、金型が開く動きに連動してスライドコアを動かすことで製品の形状を作るものです。成型機にはキャビ型とコア型を開く機構はついていますがスライドコアを動かす機構はついていないので、金型上でキャビ-コアの開く動作でうまく動かすような構造をつけている形です。
スライド金型は通常の金型に対してスライドさせる機構を追加する形になるので極力スライドする方向が少ない方がよいため、ガンプラでは1方向にのみスライドコアを設置するようにレイアウトが工夫されています。
「スライド金型」とはこのような金型の構造に関する技術で、成型機は特殊なものでなくても対応可能です。このあたりがガンプラのもう一つの特徴である4色成形との大きな差だと思います。
ちなみに身近なスライドコア金型を使った製品に、樹脂製のスマートフォンの筐体があります。
各側面に穴が開いていて4角に金型の合わせ目があるので4方向にスライドコアを設置していると思われます。バンダイの技術もすごいですが、これはこれで非常に高精度なすごい技術だと思います。
スライド金型のメリット・デメリット
スライド金型のメリットとデメリットは以下の点です。
メリット
- 1つの金型で表現できる形状の幅が広がる
- 部品が少なくできるので製品の組み立てが容易になる
- 作る金型の数が減るのでコスト削減につながる
デメリット
- 金型構造が複雑になり、金型代は通常構造の金型より高価になる
- 通常のキャビ型、コア型以外にも金型を合わせる部分ができるのでバリが出やすくなる
- 金型の動きが複雑になるため金型破損リスクが高まる
- 金型の構成部品が多いため、分解メンテナンスに手間がかかる
EGになってスライド金型が積極的に使われ出したのは、部品数削減と金型コストの削減の目的だと思われます。また結果として組み立ても容易になり、いいところづくめだと思います。
まとめ
今回はいつもと毛色が違ってEG νガンダムのランナーから金型構造について考えてみました。
スライド金型のデメリットを克服できる生産設備・メンテナンス設備が整ってきていると考えると、これから様々なキットにどんどんスライド金型が導入されていくかもしれませんね。また現在は1面のみスライド金型が採用されているものが多いですが、スマートフォンの筐体のように4面スライドさせることで今は考えもできないような複雑な部品が一体成型で再現される日が来るかもしれません。
どちらも考えただけでワクワクしますね。
ではっ!
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